吹奏楽の中でコントラバスの音が聞こえないだとか、目立たない、いる意味がわからないから役割もわからん!なぜ入るのか果たして必要なのかそこに意義はあるのか?などと見たり聞いたりするのですが、そんなん言われるのは世界広しと言えど吹奏楽部くらいのもんです。
困ったもんだ。
まずは声を大にして言いましょう。
聞こえますよ!
しかし聞こえづらいってのも分からないではないので、吹奏楽の中でコントラバスがきっちり客席に聞こえる為の条件をいくつかまとめてみました。
★条件その1
楽器の状態、奏法が良い。
★条件その2
作曲、編曲者がしっかり全ての楽器の音を理解して、必要な音を必要な場所に配置して楽譜を書いている。
★条件その3
指揮者を筆頭に、演奏者全員が作曲者の意図を理解し、バランス良く演奏している。
★条件その4
コントラバスを聴く耳がある。
まあ大雑把にこんなもんでしょうか。
コントラバスが聞こえる為の条件と言うよりは、本来は音楽をやる上で最低限必要な事なんですけどね…。
それらが蔑ろにされがちなのが日本の吹奏楽部です。悲しいことですが。
それは置いといて、ひとつずつ説明して参りましょう。
楽器の状態、奏法が良い
本サイトの方で散々述べていますが、何よりも先ず楽器が良い状態にあり、それを良い奏法で鳴らしている事。
コレが最低条件です。
出てない音が聞こえる訳はありませんからね!
弾けてないのに聞こえていたらそれはそれでホラー。
作曲、編曲者がしっかり全ての楽器の音を理解して、必要な音を必要な場所に配置して楽譜を書いている。
曲の色んな音を各パートに割り振っていく事を”オーケストレーション”と言います。
「このメロディーはオーボエとホルンに、途中からクラリネットを加えて、リズムと和音はトロンボーンに〜」などなど。
音色の組み合わせは正に無限大です。
このオーケストレーションが上手くいっていない楽曲の場合、コントラバスに限らず他の楽器の音も全てグチャッとした団子状態になってしまい、個々の音を聞き取ることは困難を極めます。
聞こえるのはメロディーラインと何となく固まったコード進行がせいぜいでしょう。
そして、残念なことに吹奏楽では販売されているスコアの中にもオーケストレーションが上手く行ってないものがちょいちょいあります。
なんだよコレただ音並べただけじゃねえか的な。
いかに上手く美しく音を配置していくかも作曲家の腕の見せ所のひとつですね。
突然ですが皆さんは料理はされますか?
料理をする時にはレシピってものがあります。
作った事がない料理なんかを作る時には必須です。
その料理を編み出す人が作曲家。
その料理を作る為のレシピが楽譜。
その料理を作る為の食材が音。
その料理を作る料理人が指揮者や演奏者。
出来上がった料理が音楽だと思ってみて下さい。
最高の食材があって最高の料理人がいても、
「なんか白い粉を適当な量水と混ぜて焼く。ソースとかかける。」
とか書かれたレシピを見て忠実に再現しても美味しいものにはなりそうもないですよね。
「小麦粉~グラムと水~mlを混ぜ、そこに鰹からとった出汁を~mlよく混ぜる。出汁の温度は~度。次に具を用意して……。」
と手順から量から全てを細かく記載されたレシピがあれば、そのレシピをきっちり守って料理をすれば、そのレシピを作った人の意図した料理に近い美味しいご飯が食べられるでしょう。
素晴らしい作曲、編曲家は全ての楽器の音色や特性をしっかりと理解して、自身の持つイメージが最善の形となって伝わるようにオーケストレーションをします。そしてそのレシピを詳細に書いたものが楽譜です。
この音をこのタイミングで、これくらいの分量を混ぜてくださいね、そうすると私の料理が出来上がりますよ、と。
僕が大好きな吹奏楽の作曲家でアルフレッド・リードさんと言う方がいらっしゃいました。
僕の学生時代はまだご存命で、元気にぶんぶん大きなお腹を揺らして指揮を振ってらっしゃいました。
そんなリード先生の指揮で吹奏楽の授業を受けていた時です。
演奏中に
「あ、やべ」
と思いました。僕ミスったんですね。
「まあバレてないかな?」
と思ったんですが、甘かった。
その瞬間
リード先生が指揮台をドン!と踏みつけて
「コントラベエエエェェイス!!!!」
はい。ビシッと怒られました。笑
バンドは確か7、80人とかの大きな編成でした。
そんな編成の大音量の中でも、聴こえた音が自分の作って配置した音ではないことに即座に気づくのだなあ、と。当然と言えば当然のことではあるのですが。
素晴らしい作曲家は、やはり必要だからそこにコントラバスの音を配置しているのだと、1音として手を抜いたりしてはならないのだとすごく納得した思い出があります。
リード先生の曲は中学生で初めてコントラバスを手にした頃から、今でも大好きです。
コントラバスの扱いもどの曲もとても素晴らしく、書いてある通りに演奏すればキチンと聞こえるように書かれています。
もちろんコントラバスだけではなく全ての楽器が生きるように書かれています。
たまにコントラバスがおっそろしく剥き出しにされて目立つとこととかありますよね。笑
と言うことで、楽譜でコントラバスやエレキベースが指定されている場合は、明確にその音が必要だからそこに楽譜があるのです。
必要だからレシピにその材料が書いてあるのです。
その楽譜がよく考えられ練り上げられたものであればあるほど、全ての音が輝きます。
楽譜に関してのオマケ
問題なのが
コントラバスの楽譜がない場合です。
オプションの場合は除きます。
オプションは人数や楽器が足りなければ無くても良いし、あるなら入れてね!と言う譜面ですね。
オプションと記載してあったとしても、オプションの譜面を作曲家が書く時には「入れた状態で響く全体の音」をイメージして書かれています。それは必要な音なのです。
先に挙げた料理の例は、実はお好み焼きをイメージしていたのですが、例えばオプションの楽器は出汁とか山芋だと思ってくださいませ。
出汁と山芋がなくても、小麦粉と水が混じった生地に具が乗って、焼いてソースと鰹節と青海苔を掛ければお好み焼きにはなりますが、生地にお出汁とか山芋が入っていたらより美味しくなります。
なきゃないで喰えるけど、入ってた方が美味しいよね。お店でプロがビシッと焼いたお好み焼きには何かしら入ってるよね。
そう言う事です。
さてさてオプションの楽譜もない場合。
吹奏楽ではコントラバスの楽譜が存在せず、チューバの譜面を読み替えて演奏する事があると思います。
この場合作曲者はコントラバスの音が入る事を想定していません。
と言うのも
日本では『吹奏楽』と全部ひとまとめにしてしまっているのですが、本来はその中で更にいくつかのジャンルに分かれています。
翻訳と言葉の勘違いの恐ろしさです。
分かりやすい例だとマーチングですかね。
マーチングにコントラバスは入りません。
だって弾きながら歩けねえもん。
このように吹奏楽の中でもいくつかのジャンルではコントラバスは入らず、作曲家も想定しておらず、それらの曲には当然コントラバスの楽譜はありません。
なので、そういった曲のチューバの譜面をそのまんま弾いても、あんまり効果が出ないことも多いです。
チューバの譜面だけでなく、他の低音楽器の楽譜も見て、スコアを読んで全体を理解し、弾く場所や高さ、arcoやpizzなどのアレンジを決定することが必要です。
作曲者も想定していないところに音を追加するので、細心の注意を払って何を弾くのか決めて下さい。指揮者の先生とよくよく相談しながら決めましょう。
指揮者を筆頭に、演奏者全員が作曲者の意図を理解し、バランス良く演奏している
せっかく超一流の腕の良い料理人が記したレシピがあっても、それが読めなかったり読んでも全然違う作り方をしてしまえば、それは全く違う料理になっちまいます。
例えば演奏する人数。
スコアには大抵”このパートは何人で演奏する”と明記してあります。
作曲者はまずパート毎の人数を示し、それに従って全体が意図したバランスになる様に曲中のダイナミクスやなんかを指定していきます。
まずその指定された人数を守らない場合、そこを考慮したバランスで演奏しなければ、お客様方に聴こえる音は作曲者の意図したものとはとんでもなくかけ離れたモノになってしまいます。
「ちょっと刺激的にしたいからレシピにないけど、唐辛子大量投下だぜ!ふはははははは!!!」って唐辛子ドバドバ増やした結果は、ただ辛いだけで他の味が何も感じられない料理になってしまいます。
そうは言っても吹奏楽部での演奏の場合は、人数に関してはどうしようもない場合もあるでしょう。
その場合は指揮者の先生のバランス感覚が重要になってきますね。
例えば演奏技術。
どんなに素晴らしいスコアがあって良い指揮者が指示をしても、演奏者がそれらの要求に応えられなければ美しいバランスは崩れ去ってしまいます。
「ここはピアニシモで優しく!」
って言われてるのに小さく優しく演奏出来ないからってフォルテで”どーん!”とかやっちゃったらもう台無しです。
ついでに言うと音程が正しく取れない場合、音は客席で聞こえづらくなります。
これはもう物理現象で仕方ないのですが。
他の場所で何度か書いている通り、音は空気の振動であり、波です。
試しにお風呂かなんかで水面を”ぽちゃん”とやってみてください。
水面に”波紋”が広がると思います。
この波紋が音だと思ってください。
両手で2箇所同時に波紋を出してみてください。
波紋同士がぶつかって弱まりますね?
これが音程が悪い状態です。
しかし完璧に同じ波同士が並ぶと、なんと2つが合わさって倍の大きさになり、より遠くまで波が到達します。
音程が合っていない場合、合ってない音同士が打ち消し合ってしまい遠くまで届きません。
音程やタイミングがビシッと合うと、相乗効果で遠くまで良い音で響きます。
その為にはバンド全員が正しく美しい音程で演奏する必要があります。
“楽譜から作曲者の意図を汲む”事についてもうひとつ思い出したこと。
吹奏楽のこれまた偉大な作曲家、ジェイムズ・バーンズ先生の指揮で演奏させていただいた時に、バーンズ先生がこんなことを仰っていました。
10年以上前の記憶なので正確ではないですが。
「私が言いたい事、表現したい事は既にあなた達の前にある楽譜に全て書き込まれています。だから注意深く楽譜に書かれた全ての記号を読み、それを正しく演奏して下さい。」
ちなみにバーンズ先生は色んな楽器の音を声で真似するのがめっちゃお上手でした。